桜が求めた愛の行方

10.甘い痛み

その夜、佐伯の家からホテルに戻ると、
少しだけサイズ直しをされた
マーメイドドレスが届けられていた。

パリから戻って一旦は藤木の家に
戻ったさくらだが、
3年離れていた家は母もおらず、
すっかり生活感がなくなってしまっていた。

ナミさんは、母が再婚したのを機に引退し、
今は息子さんと暮らしている。
知らない人ばかりの家は、
他人の家のようで居心地が悪かった。

懐かしさはあるけれど、もうあの家が
自分の家だと思えなくなってしまっている。

忙しそうな勇斗に合わせるという理由を
つけて、結婚式までさくらもホテルに
滞在することにした。

流石に結婚前の二人を一緒の部屋にしようと
する者はおらず、
部屋を譲るという勇斗の申し出も断って、
さくらはセミスイートにいる。

『綺麗な花嫁かあ……』

今日の勇斗の変化に戸惑いと喜びを感じ、
ドレスをぼんやり見ていた。

今朝までは、まったく意識していなかった
結婚生活。
別々に暮らすとか、考えなくていいのかな。

部屋のチャイムが鳴る。

勇斗?!
こんな時間に?

ドレスを振り返り、
ドキドキする胸を押さえた。
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