桜が求めた愛の行方

3.過去からの来訪者

結婚式ではピンクの花びらをつけていた枝が
今は青々とした葉の緑が眩しい季節に
変わっていた。
あと少しすれば鬱陶しい雨が続く日々になる。

昔あの小さな池にいる蛙を捕まえて
パパを喜ばせていた懐かしい光景が甦った。

ここに来るとパパを感じる。
お転婆娘を高く持ち上げ、くるくると回って
二人で笑った幼い頃の思い出。

清々しい風に髪をなびかせて
さくらは、ザ・トキオの庭を歩いていた。


あれから勇斗は何も言わない。

ベッドルームも二つのまま。

ただ彼が眠るのは左側の私の部屋で、
自分のベッドは一度も使っていない。

あの時、口からこぼれてしまった
本当の気持ちが二人の間に
極僅かな溝を作ってしまったことは
わかっている。

勇斗は私が打ち明けるのを待っているのよ。

情熱的な夜を過ごして向かえた朝ほど
彼は何か言いたげに私を見つめている。

言えるはずがない……絶対に……

元々甘い新婚生活なんて期待して
いなかったけれど、彼がこれほど
忙しいとは思ってもみなかった。

毎晩遅くに帰宅して、
手料理を振る舞う機会もない。

体が心配でそう告げると、
逆に私を求められて《心配するな》と
言われてしまう。

田所さんが上手く彼を管理してくれると
いいのだけれど……

結局、ここへ来てもなんの答えもだせぬまま
リラックスしただけだった。



< 72 / 249 >

この作品をシェア

pagetop