桜が求めた愛の行方

9.嫉妬


今ごろになってなぜ?

三年前、このホテルの庭で告げた
プロポーズの言葉は、シャボン玉のように
宙に浮いて弾けた。

あの日父の会社がようやく持ち直し、
このままならば大丈夫だろうと確信しての
求婚だった。
さくらとて、俺と結婚するつもりがないの
だから、フランスへ行ったんだ。
婚約を破棄するなら今だろう。

美那は2年間、さくらと俺のカモフラージュに耐えてくれた。
それなのに……

俺は描いた未来が音を立てて崩れていくのを呆然と感じていた。

《私の事も待って欲しい》
確かに美那は言った。
実際、俺は待とうと思った。
海外へ男と消えるまでは。

大学で偶然知り合った美那は、
瞳をきらきらさせて、海外でトップモデルになるのが夢だと話していた。

俺の素性なんかお構いなしに、
自分の夢に向かって頑張る彼女を純粋に
応援したいと思った。
だから、必要な援助をしていた。

『くそっ』

藤木の力で調べさせたらあっという間に
答えが得られた。
彼女はフランスで、ショーモデルとして
成功していた。
その世界は厳しいと聞く。
まさに彼女が言うように血を吐くような
努力の日々を積み重ねた結果だろう。

これまで、なぜこうして容易く手に入る
情報を得ようとしなかったのだろう。
勇斗は手元の資料を握り潰した。

今さらどうしようもない事を
俺にはさくらがいる。

さくらの声を聞いて安心したくて、
携帯を鳴らす。
電源が入っていないアナウンスに、
舌打ちした。

『どこへ行った?』

田所が再び会議の時間だと呼びにきた。
仕方なく、もう一度ブライダルの会議室へ
と向かった。
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