《密フェチ》その牙で犯して


そんなこと聞かないでよ。答えるの、癪じゃない。

君は私に覆いかぶさりながら、耳元で「気持ちいい?」なんてことを囁くのだ。

男らしい鋭角的な肉体。浅黒く焼けた肌。垂れ下がる前髪の隙間から見える、どこかあどけなさを残している茶褐色の瞳。

そんな麗しい肉体に抱かれて、感じないはずがない。気持ちいいに決まっている。

8歳も年下の君にまるで手玉に取られているようで、素直に頷けないでいると、君は八重歯を見せてふっと笑った。

ああ、ずるい。

そんなかわいい笑顔を見せないで。

まるで私を骨抜きにする術を知っているみたい。



初めて君に会ったのは、昼下がりの図書館だった。

上段にある本を取ろうと背伸びしていた私の隣にすっと歩み寄り、軽々と取り出してくれた。

「どうぞ」

そう言って軽く微笑んだときに見えた八重歯に、不覚にもときめいてしまった。



「意地張ってるとこも、かわいい」

「年上をからかわないの」

「……そうやってまた予防線を張る」

言葉が出てこなかった。

だって。

そんな無邪気ではいられない。大学生の君とは訳が違う。

「わかってるでしょ?」

「主婦だってこと?」

静かに頷くと、君は小さく息を吐いた。

「今は俺といるんだから。今だけは俺だけを見てよ」

そのまっすぐな視線があまりに鋭くて、背筋がぞくりとした。この青年は、こんな表情もできるのか。

「俺に溺れて」

そう言って、首筋に舌を這わす。

本当は。

溺れてしまいたいと思っている。そのかわいい八重歯に噛みつかれたいとさえ思っている。しかし、理性が邪魔をする。

そんな私の気持ちに気づいたのか、君が密かに微笑んだ気がした。

「本当のこと、言っちゃいなよ」

「なによ、本当のことって」

「もっと乱れたいって思ってる」

そんなことない、と否定する間もなく。



「俺の痕、いっぱい刻み込んであげるから」

そう言うと、君は私の首筋に、そっと牙を立てた――。





fin

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