ショコラ SideStory

「ちょっと電話していいですか? マスター」

「構わんよ、客もはけてる」


許可をとって、厨房から和美に電話をかける。


『マサさん?』

「和美、今日店にこれるか? 遅くなってもいいんだけど」

『家庭教師があるから、九時は過ぎるよ? お店開店中にはいけないと思う』

「じゃあ迎えに行っていい?」


いつもなら諦めるところでも今日は折れたりしない。


「どうしても食べて欲しいものがあるんだ」


一瞬の沈黙。そして嬉しさを内包したような声。


『ケーキ?』

「うん」

『私も食べたい』


その返事だけで、俺の胸は満たされるけど。
これからはそれで満足しない。もっともっと、彼女を求める。


「和美のために作ったんだ。だから、どうしても食べて欲しい」


彼女は一瞬言葉に詰まり、その後小さな声が耳をくすぐった。


『……嬉しい』


俺も嬉しいよ。
今日ばかりは俺も憚らずに幸せオーラを出しまくろう。


「あーなんか空気が熱いわ」

「そうか? 暖房キツイかな」

「馬鹿ね、父さん。そういう意味じゃないわよ」


店内にいる二人の会話が気になるけれど、知ったことではない。

自信を付けた男には、怖いものはなにもないのだ。





【Fin.】
< 247 / 432 >

この作品をシェア

pagetop