不思議電波塔
四季と忍が行った左の階段は、最初は塔の外側を螺旋状に描いているのかと思ったのだが、内側へと繋がる構造になっていた。
一周ほどすると2階の部屋があり、扉が開いた。
その先に階段は無かったので、四季と忍はその部屋に入る。
部屋はがらんとしていて、中央にオブジェのように螺旋階段が立っていた。
「この建物、火災があった時なんかに安全性に問題ある構造じゃない?」
忍が螺旋階段を上りながら顔をしかめた。見上げると螺旋階段は終わりがないように上へと伸びていた。
四季は何も言わない。かなりきつそうだ。
「四季、大丈夫?」
「…うん」
「少し休もう」
「……」
「疲れきって弾けなかったら意味ないよ。私が先に少し上まで見て来る。仕掛けがあるかもしれないようなこと言ってたし」
「…うん。お願いしていい?」
四季が素直にそう言葉にして、忍はほっとする。
気分が悪そうな四季を途中のフロアに座らせる。
四季は逆行のワルトシュタインの音にも酔ったのか、その音が鳴っているのもつらそうだった。
忍は「大丈夫だから待っていて」と言うと、だいぶ上まで急いで登って行く。
5階のフロアにたどり着いた。
これまでの部屋と雰囲気を異にしているのは、その部屋には絵がたくさんあった。
「──…?」
忍はその部屋の壁にある絵をひとつひとつ見てみる。
恋人の像、階段が左右に伸びる1階、2階の扉を開けたところ、そして3階のフロアに座っている四季。
「この塔のぜんぶが現在進行形で絵になってる…?」
忍は呟いた。4階のフロアには誰もいない。5階の絵は──鏡になっていた。
鏡に映る自分の姿を見て、忍はそういうことかと理解する。