年下の不良くん

「お母さん、私ね、お母さんが夢だったって言ってた仕事に就きたいの」


まだ私が小さかった頃、保育園から自分の将来の夢を考える宿題が出た時に、母が私に子供の頃に成りたかった夢を話してくれた


母は将来、保育士に成りたかったそうだ


だけどもともと身体は弱い挙句に、持病を患っていた為、母は夢を諦めざる得なかった


それを聞いた時から私の夢は、母の夢を受け継ぐ事に決まった


私の今ある命は、もしかすると母の命をも削って成り立っているかもしれない、そう思うと私一人の命ではないように思えたのである


「絶対なるから、保育士に」


その為に必死に勉強して大学に合格したんだから


隣を見ると視線に気づいた翔くんが、珍しく笑いかけてくれて、自然に私の顔も緩んでしまった


それからまた少し手を合わせてから立ち上がると、後ろから人の気配がして振り向いた



振り向いた先にいたのは、高価な着物を品良く着こなした年配の女性で、私を見るなり驚愕したように綺麗な顔いっぱいに目を見開かす


だが私とは初対面であろうに目の前の女性は私の事を知っている風な表情で、私はいったい何処かでお会いした事があるのだろうか、と記憶を辿った


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