地球の三角、宇宙の四角。
Time To Say Goodbye
***

醤油のしみこんだ和室。

元の畳の色を残した部分は少なくて、醤油の香りが立ちこめている。

日本の空港に降りた外国人は醤油臭いという感想を持つらしい。

家にもそれぞれの匂いがあり、薬剤師を父に持つ藤原さんの家はクスリ臭かった。サロンパスとなにかの薬品特有の匂い。その何かはよく分からないが中畑さんの家は食べ物の残りの匂いと獣の匂いと換気の悪い匂いがしたし、マハジャイールさんの家は香辛料と鶏肉の脂が混じった匂いがした

言葉や文字から匂いを連想する事があるが、夢の中で匂いを嗅いだことはないように思う。でも、そのうち映画館でもラベンダー畑のシーンにはラベンダーの匂いがしてきたら、それはなんて素敵なことなんだろう。

実際には、醤油の染みだらけというかほとんどが薄黒く染まった畳の上に座椅子に座る一路君の背中を眺めていた。

薄黒く染まっているのを見て匂いを連想しただけかもしれない。ここはしょうゆさんの家なのだろうか、背中越しのTV画面にはサッカーのフォーメーションで、選手の好調不調を気にしながら選手の配置を一路君はノートにとりながら考えていた。

部屋には一路君1人で昭蔵さんの姿はない。

ボタンを押した後にゲームの中の試合は始まったようだが、一路君は何も操作することはなくぼんやりと眺めていた。

「しょうがないわなぁ」

とぼんやりと何度かつぶやいている。

このゲームはどうやらシュミレーションゲームのようで一路くんはプレイヤーではなくサッカーチームの監督、もしくは運営をしているのだろう。指示を出すばかりで眺めながら時折小さくガッツポーズをしているだけだ。

ゲームの中の月日は流れて年末になり天皇杯という一発勝負のトーナメント戦になると、負けるたびにリセットボタンを押し、セーブデータからやりなおしてる。

5回連続で負けたときに「あー」といいながらコントローラーを放りなげてから、パタリと横になった。

しばらく横になっている一路君に話しかけようと思った。

近づいていこうとしたときに“直接接触”という言葉を思い出す。なんの言葉だったんだろうか。




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