スケッチブック





「私ね、来月結婚するの。」





独り言のように呟く。


貴女の支えになりたいと言った人。
私とあの人は加害者と被害者ではなくこれから共に歩む者となることを、これまでの長い時間の中で見つけたのだ。





どれ位こうしていたのか。
彼がスケッチブックを置いた。
動けないままの私の傍らに跪き、両手で太股を包む彼の手は乾いていたけど優しかった。
私はその手を愛しいと思った。
彼が身を屈めて、私の醜い傷痕にそっと唇を這わせた。
この記憶に永遠に刻みたいと、瞳を閉じて願った。
もう、これだけで十分。
彼の右手を取り頬に寄せてみる。



窓の下で車が停まった。
あの人が迎えにきたのだろう。



彼の手首の痕跡は一生背負う、私と同じ痛み。
だから私が、舐めてあげる。






チャイムが鳴った。
カーテンが揺れて頁が風に踊る音が聞こえる。
もう一度瞳を閉じると、僅かに海の匂いがしたような気がした。
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