こわれもの

顔見知りの近所の中年男女もやって来る中、初対面の客も多い。


年末。

小さなミスを繰り返しつつも、アスカはようやく、バイトの雰囲気に慣れ始めたのだった。


アスカが古泉ヒロト(こいずみ·ひろと)と出会ったのは、除夜の鐘が似つかわしい、冬の夕方。

いつものようにレジで接客をしていると、

「89番2つ」

今まで見たことのない、低くて細い声の男性が、アスカのレジでタバコを注文した。

タバコの種類は多いため、アスカはまだ、全部の番号を覚え切れていなかった。

ほとんどの客は、番号じゃなくタバコの銘柄で注文してくるからよけいに混乱してしまうのだが、ヒロトは違った。

彼は、銘柄でなく番号で注文をしたのだ。

タバコに詳しくなく、バイト歴の浅いアスカとしては、番号指定される方がすごく楽だった。

アスカは言われた番号のタバコをスムーズに取り出すと、ヒロトに渡し、

「690円です」

「あ、袋はいいよ」

「かしこまりました」

袋に入れず裸のタバコを受け取ると、ヒロトは柔らかい声でアスカに尋ねた。

「初めて見るけど、新人?」

「はい。先週入ったばかりなんですよ」

アスカは出来るだけ丁寧な受け答えを心がける。

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