大切なもの
 


「…空也、好き…」


泣きながらキスの合間にそう溢すけど。空也は曖昧に笑っただけだった。

あの時みたいに、好きだと返してくれる事はない。


「…そんな事言うなよ」

「…好き」

「こっから連れ去りたい」

「………」


「…って、留学行く前からずっと考えてたけど」

「………」

「好きだよ。――皐月」


…空也は、残酷だね。

嘘でもいいからあたしに、綾香に。愛してると言って欲しかった。


抱き締める空也の力は今まで以上に強くて、切なくて泣き出してしまいそうだった。




< 37 / 52 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop