翡翠幻想

 ――― ちゃぽん

 釣瓶がすっかり軽くなったところで、何かが木桶へと音を立てて落ちた。

「なんだろう」

 ただの小石だろうと思ったそれは、木桶のそこで澄んだ緑色にちらちらと光っている。

 空になった釣瓶を抱えたまま、束の間、桂桂はその光に見入っていた。

(きれいだなぁ。姐姐が見たら、元気が出るかもしれない)

 早く帰ろう、と桂桂は木桶を両手で持ち、家に向かった。

 家といっても、正確には叔父夫婦の家である。

 数年前、両親が流行病で死んで以来、姉弟はそこで世話になっているのだった。

「おかえりなさい、桂桂。大丈夫だった?」

 汲んできた水を水瓶へ移して自分たちに与えられた部屋へ戻ると、姉の珠明が炉に火を起しているところだった。

 もう半刻もすれば叔父夫婦が起きだすので、それまでに朝食の準備をしなければいけないのだ。

「姐姐、起きて平気なの?」
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