翡翠幻想
「私は青海湖竜王、延鵠という者である。此処な娘は、我が妻となる者。貰って行くぞ」

 男は威厳に満ちた声で宣言した。

 反論できるものなどいない。

「県令よ、随分と評判が悪いようだな。落雷には注意せよ」

 古くから、悪人は雷が下って死ぬと信じられている。

 県令は、焼け死ぬ己を想像して震え上がった。


「珠明よ」

 男は牀の上の姉弟に向き直った。

「私の妻になってくれるだろうか」

 威のある男が表情を和らげて妻問いするのに、珠明は顔を赤らめた。

「そなたの顔は、花が咲いたようだな。すぐにも返事を聞きたいが、確かに、この場では無粋に過ぎよう。我が宮へご招待申し上げる」

 言うが早いか、男は両手に姉弟を抱え上げるようにし、空へと翔け上がった。

「りゅ、龍……」

 県令は喘ぐように言い、気を失った。
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