鮮やかに青いままで

電話の向こう、はしゃぐ彼と。

俺は恐る恐る着信相手を確認した。


『飯沢利紀』



予感は外れた。幸いにも。


着信時刻は7時15分。
野球部の練習が終わってからすぐかけたのだろう、そんなに急ぎの用事だったのだろうか。


こちらからかけ直してみる。


『…あ、もしもし光太郎?』

「おう。なんかあった?」

『それがさ、俺さ、ついにさ!』

電話の向こうの声はえらく興奮している。

『1番もらっちゃったんだよおおお!』

「おおお!!」

思わずこちらも歓声を上げる。



1番、というのは野球部の試合における背番号のことである。

投手である利紀はずっと10番、2番手ピッチャーにあたる番号をつけていた。
1番はエースが背負う番号。

『今日の練習後に言われた。お前の度胸を買うって』





これ以上ないくらい声を弾ませる利紀。


「良かったな」



心からそう思う。
利紀が誰よりも努力家であることは、中学時代キャッチャーとしてバッテリーを組んでいた俺が良く知っている。

体格はともかく、決してセンスに恵まれてはいない。
投球フォームを修正するにしても新しい変化球を覚えるにしても、コツを掴み要領を得るのが人より遅かった。

だから誰より練習し、勉強することを怠らなかった。四六時中、監督や先輩に教えを乞い、俺を練習に付き合わせた。

こいつの努力は報われなければいけない。もっと言えば報いなければいけない。


利紀の投げる球を受けるときの俺の心はその一心だった。
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