【完】空とキミ ‐十朱 朔也‐


「…布団はこっち。トイレはそこ。
はい、おやすみなさい」


…彼女の手を引いて廊下に出て、そのまま布団を敷いた部屋へと押し込む。


「お姫様抱っこは?」

「無い」


バタンッと勢いよくドアを閉め、深く深く息を吐く。


落ち着け…何やってんだ俺。
あんな女に乱されてどうするんだ。




「朔也ぁ」

「…なんですか」


ドアをほんの少しだけ開いた彼女が、上目遣いに俺を見る。




「今日は色々ありがと。
無理言っちゃってごめんね」




その言葉と共に、ふわりと彼女の髪が揺れる。

そして…――、




「おやすみのチュウ、だよ」




――…彼女の唇が、頬に触れた。




「明日はちゃんと帰るから心配しないで。
じゃ、おやすみなさい」




パタン


ドアが静かに閉まり、彼女の姿も見えなくなる。




「………」


彼女が触れた部分が熱くなり、全身へと広がっていく。




「……くそっ…」


…なんなんだよ、あの女。

さっきまでの馬鹿みたいな会話はなんだったんだよ。


なんであんな、頬っぺたを赤くしながらキスするんだよ…。




「……はぁ…」




…アレがあの女のやり方なんだ。と、わかってる。

わかっているのに鼓動は速まる一方で、決して落ち着くことはない。




「…馬鹿女」


彼女の消えたドアに寄りかかり、そのまま静かに天井を眺め続けた。




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