桜の咲く頃に
 見舞いに訪れる友人も何人かいた。だが、翔太の変わり果てた姿を目の当たりにして掛ける言葉が見つからないのか、一様に無口だった。時折ちらちらと投げ掛けてくる視線も翔太を哀れんでいるようだった。
「翔太、生きていてくれただけでよかった」
 両親に言われた言葉の真意は、医者の説明を聞くまでわからなかった。
「下半身の機能障害はどこまで回復するかわからない。一生車椅子の生活を強いられることもあり得る」
 そう医者に告げられたとき、一瞬、頭の中が真っ白になった。
 しばらく静養してリハビリに専念すれば、またバイクに乗れると思ってたのに……。
両親も、息子が元のように歩けるようになることなど、期待しちゃいないんだ。
 集中治療室から一般病棟に移ると、すぐリハビリが始まった。
 そう簡単に諦めるもんか! バイクに乗ったとき、風になれたんだ。もう一度バイクにまたがって見せる!
 翔太はそんな強い意志を持って臨んだ。
 一人でトイレに行けるようになるのにそれ程時間は掛からなかった。といっても、歩けるようになったわけではない。ベッドから車椅子に、車椅子から便座に、便座から車椅子に、車椅子からベッドに移れるようになっただけだ。
 血の滲むような努力にもかかわらず、その後はたいした進展もなく、翔太の望みは粉々に打ち砕かれた。
「身の回りのことが自分でできるようになっただけでもよかったじゃないか」
「今後のことは心配しなくていい」
 両親の腫れ物にさわるような態度がやりきれなかった。
 おやじは、毎晩の晩酌しか楽しみがない、しがないサラリーマンだ。高卒で就職して、残業代もつかないのに、毎日遅くまで会社に残ってるらしい。俺が高校の頃は、「お前は大学くらいは出ておけ」っていうのが口癖で、今は、苦労して学費を工面してくれてることくらいわかってる。
 それなのに、俺ときたら、ろくに授業にも出ないでバイトに精出して、バイク買った後も、勉強なんかそっちのけで、暇さえあればツーリングに出かけていた。そして、事故に遭った。
 トラックの運転手がちゃんとバックミラー見てくれてりゃ、こんなことにならずに済んだのかもしれないけど、今更そんなこと言ってもどうしようもない。それより経済的余裕もないのに、一生自分を世話していかなければならない両親のことを思うと、自分が情けなくなる。  
 そんな思いを巡らせているうちに、ふっと「自殺」の2文字が翔太の脳裏に浮かんできた。
 一旦そんな考えに取り付かれると、完全に克服するのは難しい。その日を境に、断続的に襲ってくる自殺願望を何とか抑え込む日々が続いた。
 実行に移す勇気なんてなかったけれど、翔太はとりあえず自殺志願者のオフ会に参加してみることにした。
 
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