桜の咲く頃に
 決まり悪そうに、小さな声が答える。
「加恋、あなたまさか自殺考えてるわけ?」
「そんなー! あたしだってまだ死にたくないよ。ちょっとおもしろそうだなって思っただーけ」
 ぺろりと舌を出す。
「加恋、そんなオフ会なんかに行くと、生きて帰れないかもしれないよ」
「大丈夫だって」
 心配そうな表情を浮かべる千佳を気にも留めず、加恋は続ける。
「それでさあ、裏ページの入り口見つけるの手伝ってくんない?」
「あたしパスする。加恋に死んでもらいたくないもの。ねえ、このベンチに座ろうよ」 
 さらりと受け流すと、千佳はさっさと腰掛けようとしている。
「あたし今日はついてるのかなあ? ちょっとそこ見てごらんよ。あたしが先に見いつけたんだからね」
「加恋、そこってどこよ? 何言ってるのよ!」
「そこだよ、そこ。千佳の斜め後ろ」
「あ、見えた! 黒いケータイ」
 立ち上がって振り向いた千佳がそう言い終わるか終わらないうちに、すばやい動きでベンチの後ろに回り込んだ加恋は、雑草の中から携帯を拾い上げていた。
「ちょっと、加恋、何か気味悪くない? あたし何だかすっごく嫌な予感がするんだけど…もしかして今はもうこの世にいない人がこの世に残していった物かもしれない。もし恨み、未練、妬みなんかの負の感情を残して死んでいった人だとしたら……」
 心なしかその声は震えているようだ。
「千佳、何言ってんのよ! そこいらのチャラ男がうっかり落としていったのかもしんない。あれ、つかないよ。こわれてんのかな? 充電してみないことにはわかんないよね。確か駅前にこのケータイ会社のショップあったよね」
 千佳の不安をよそに、加恋はのんきなものだ。
「う~ん、持ち主がケータイ会社に連絡して利用停止にしてるはずだから、あそこで充電するのはやばいかもしれない。いっそのこと交番に届ける?」 
「ちょっと待った! 商店街の漫画喫茶に無料のケータイ充電器ってなかったっけ?」
「あるよ。あたし使ったことないけど、見たことある。行ってみる?」
 花見客を横目に見ながら、二人は公園を斜めに横切っていく。
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