最初で最後の恋文
「卒業する前に一回でもいいから屋上に入ってみたかったの。それが、今叶った!!本当はいけないことだけど、それでも嬉しい!!ありがとう!」
 
遥斗は真琴の笑顔に微笑むと、今度は街に向かってカメラを構えた。
 
真琴は遥斗が写真を撮っている間、ずっと屋上から街を眺めていた。
 
この街はいつも見ている街、いつもここで暮らしている街、そうだけど…ここから見る街はいつも見ている街ではなく、いつも暮らしている街ではなく、何故だろう…特別に見える。
この場所で街を見ることは今だけだから…かもしれない。

「佐伯君はこの街が好き?」
 
遥斗は真琴の言葉にカメラを構えるのをやめ、チラッと真琴を見ると、目を街に向けて口を開いた。

「そんなこと考えたことない。」
 
その時の遥斗の横顔と静かな口調は寂しそうに思えた。
遥斗は私たちが暮らしている街よりもどこか遠くの誰も知らないところを見つめている感じがした。

時々、そんなところがある。
アルバム作りに参加し始めて、少しずつ遥斗との距離が縮んできたと思ったが、フッと遥斗はどこか遠いところを見つめていて、その横顔は寂しそうに感じる。

「宮崎は?」
 
遥斗は真琴に目を向け、聞いてきた。
その目は、もう寂しそうな目ではなかった。

「好きだよ。何もない田舎町だけど、あたしは大好き。」

「都会に行きたいとか思わねぇの?」

「そりゃぁ、少しは憧れるよ。でも、離れたくはない。この街にはたくさんの思い出が詰まっているから。だから、この街を離れる人に忘れて欲しくないんだ。この街で過ごした日々を。」
 
遥斗は静かにカメラを構えた。

「宮崎。」
 
遥斗の声に真琴は振り向いたと同時にシャッターの音がした。
カメラは真琴に向けられていて、遥斗が笑っていた。

「ちょ、ちょっと!!」
 
真琴は遥斗が持っているカメラを取り上げようとしたが、背の高い遥斗が腕いっぱいに空に向かって挙げたのでカメラに届くはずがなかった。
真琴は遥斗に、絶対に出来上がったらちょうだいよ!と言い続け、遥斗はそんな真琴を笑いながら見ていた。
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