HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
「そういえば」

 私は彼の家が確か歯科医院だという話を思い出した。

「清水くんの家は歯医者さんだと聞いたことがあるけど」

「よく知ってるね。オヤジが歯医者なんだ」

 私の中で歯医者さんは痛いイメージしかない。あまり行きたくない場所だ。あのキーンという音がもうたまらない。

「後を継がないの?」

 ありきたりな質問をしてしまったな、と清水くんの顔を見て少し後悔した。たぶん皆に言われるのだろう。「また?」というような表情だった。

「いい仕事だと思うけど、歯医者は過剰気味でしょ。それに俺に弟がいるんだけど、そっちの方が優秀だからさ」

 え? 弟の方が優秀って……清水くんより優秀ってどんな人!?

「俺は数学に興味があるから、そっちに進みたいんだよね」

 そうなんだ……。あの憎い数学に興味があるというだけで、私はこの人には敵わないという気持ちになってしまう。

「高橋さんの嫌いな数学」

 そう言って清水くんはニコニコした。それそれ! まさに悪魔の笑顔!!

「よかったら教えてあげようか?」

「いえ、結構です」

 私ははっきりときっぱりと丁寧にお断りした。

「つれないなぁ」

 彼は苦笑して前髪をかきあげた。ちょっと長めの前髪はくせ毛なのだろうか。無造作にかきあげても変にならないから羨ましい。

「ま、いいや。まだ時間もあることだし」



 ん……? まだ時間もある?? ……………
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