HAPPY CLOVER 1-好きになる理由-
 ――そうか。舞ちゃんね。

 ――……ん? タカハシマイ……ちゃん?



 俺は記憶の片隅に何か引っかかるものを感じて、日誌から目を上げた。

「何か面白いことでも書いてあった?」

 高梨が俺の脳内過去検索に割って入ってきた。正直、俺はこの高梨が苦手だ。妙に勘がよくて言葉に棘がある。

「まぁね。高梨さんって面白い文章書くね。先生も『ユーモアがある』って書いてるけど」

「そう? せっかくだから面白おかしく書いたほうがいいかと思ってるだけ」

 三つ編にした左右のおさげを両手で弄びながら高梨は俺の顔を覗き込んだ。

「清水くんって、クセ毛?」

「そうだけど」

「いいなー。私もそんな感じのクセならよかったのにー!」

 いつもきっちりと三つ編おさげにしているな、と思ったらどうにもならないクセ毛らしい。しかも彼女はかなりの剛毛に見える。お気の毒に。

 ここで話を切り上げて自分の席に戻った。斜め前方の高橋さんをもう一度見てみると文庫本を読んでいた。目の悪い彼女はあんな分厚い眼鏡をかけているくせに、本を眼鏡の手前まで引き寄せている。

 ――こんな暗い中で活字なんか見たらもっと視力が悪くなるよ?

 それにしてもあの眼鏡は変装効果抜群だな、と俺は妙に感心した。そしてあのおかっぱ。いつ見ても同じ長さのような気がするから不思議だ。まるでこけしのようだと思う。

 ――……こけし? 待てよ、どこかで聞いた気がする。

 俺はまた脳内過去検索を再開した。こけし、こけし、こけし……



『本当にかわいい子ね! 英理子がフランス人形なら、マイちゃんはこけしみたい。でもお目目がぱっちりしてるから、きっと将来美人になるわよ!』



 英理子のおばさんの声だ。あれは確か小学一年生だっただろうか。夏休みに英理子の家に遊びに行ったら、知らない女の子が英理子と一緒に遊んでいた。

 当時おばさんの趣味で英理子はパーマをかけていた。フランス人形のようだとよく大人たちが評していたが、実際はそんなおしとやかな性格ではない。しかもなぜか怪力だ。

 それに対して、初めて会ったその知らない女の子はおとなしくて、黙っていると本当にこけし人形のようだった。俺が英理子の部屋に入った瞬間、その子は大きな目を更に見開いて俺を凝視した。

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