出会いから付き合うまで。
 突然の申し入れに、驚いて言葉を紡ぐことができないあたし。なんて言ったらいいか、直ぐには出てこない。何で友達を呼ぶの? とか、何であたし達二人だけでいられないの? とか、いろいろ疑問が浮かんだけれど、それは口に出さず、あたしは笑顔で肯定の頷きをした。

 それから暫くして、草加君が言っていた友達が自転車に乗ってやって来た。三人で並んで座る。あ、もちろん、草加君とあたしは手を握ったまま。だからあたしと草加君は隣り合う形で座り、草加君の友達は草加君の隣に座った。顔は普通。特に特徴の無い人だった。けど、優しそう。優しく笑っていた。草加君と同じように。二人は本当に仲良しなんだろうなって思った。親しく声を掛け合って、息もぴったり。
 草加君の友達も交えて、話は尽きなかった。お互いの学校のこと、ドラえもんの話。あたしの話もそうなんだけど、あたしの話よりもむしろ草加君の話のほうが盛り上がった。いろいろ聴けて楽しい時間だった。ふと時計を見ると午前四時。こっそり出てきたから、家族が起き出す前に帰らないと。あたしはそわそわし始めた。
「何? 何か心配事?」
 草加君が気にして訊いてきてくれた。そんな、ちょっとした心遣いだけでも嬉しい。
「あぁー…………そろそろ帰らないと…………」
 あたしは申し訳なさそうに言う。申し訳ないことなんて無いんだけどね。
 本当は帰りたくなかった。話は弾むし、尽きることが無い。草加君のことをもっと知りたいと思っていた。でも……お互い、学校がある。あたしが帰ると言い出さない限り、この状況は続くと思っていた。でも、だからこそ、あえて切り出したのだ。
「……送るよ」
 草加君が紳士的に言ってきてくれた。
「いや、いいよ。近いし。道分かるし」
「ううん、だめ。送るから」
 草加君って、結構強情なところがあるんだな。新しい発見。
 結局送ってもらうことになった。
 自転車を併走して走る。こぐスピードが自然と遅くなる。二人とも無言でこいでいる。気恥ずかしさと、別れを惜しむ感情と。それが交互に押し寄せてきて、あたしの胸には複雑な波模様が描かれていた。その模様がだんだん広がっていく内に、目的地についてしまった。あたしは諦めとも悲しみともつかない感情を抱いた。
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