鈴姫


「わたし……」


憂焔の気持ちには応えたい。



けれど…… 



香蘭は黙り込み、俯いてしまった。


長いときが流れているかのようだ。

外ではしゃぐこどもの声がいやに部屋の中に響く。


やがて、香蘭を見守っていた憂焔がふっとため息まじりの笑みをこぼした。


「わかってるよ」


そう言って香蘭の肩に手をぽんと置いた。

香蘭が唇を噛んで顔をあげると、憂焔はにやりと笑う。


「結婚しなくても、俺を支えてくれるんだろ?」


彼は懐から、見覚えのある鈴を取り出した。

涼やかな音色をたてるそれは、憂焔のもとへ嫁ごうというときに香蘭が憂焔に渡したものだ。


「憂焔ったら」


いたずらが成功したような顔をする憂焔につられて、香蘭も笑顔になる。


こんなにもいい人なのに。


彼の手をとれない。


そんな自分が恨めしいのに、彼は許してくれる……


短刀をきゅっと握りしめると、憂焔が気づいて香蘭の手元を見た。


「それ……」


香蘭は頷いて、短刀に視線を落とす。


「……想いは、叶ったの」


もう光を放つことはない短刀を手に、呟いた。



やっと。



長いときがかかった。


あの人がやっと救われたのだから、いつまでも憂いていてはいけない……



この国も、もうすぐ息を吹き返すのだから。


胸に抱えた桜の短刀が、心なしかあたたかい気がした。





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