ダイダロスの翼
人外の少女は銃を抜く
耳に残る衝撃音。


「トール、無事か!?」

「あ、ああ」


2人にケガはなかった。


銃声の主は、レイノルドでもトールでもない。


音源は、数分前に銃を買った住民が姿を消した、フェンスの向こう側。


鬱蒼と茂る木々が邪魔で、視界が効かない。

何が起きたのか、まるで分からない。


「……邪魔だ!」


――検索、『フリーランニング』。
――ダウンロード開始。
――インストール完了。


行く手をはばむ金網へ手を伸ばす。


「レイノルド、やめろ!

町へは入るな!」


背後でトールの怒声が聞こえた。

が、すでにレイノルドは地を蹴った後。


「大丈夫だ、トール。

町の様子を確認したらすぐ戻る!」


そう叫んで、高さ3メートルのフェンスを軽々と飛び越える。


高く飛び上がった視界の端、茂みが遠ざかった。

幾重にも重なる枝葉が退いていき、空が近付く。


自分が鳥になったような、そんな気がした。


あっと言う間にフェンスの町側へ降り立ったレイノルドは、トールの制止の声を振り切り町へと駆ける。

先程の跳躍で、太陽の方向は確認済みだった。


「……すぐに、戻るから!」


まったく信用できないその言葉に、トールが怒鳴る声がわずかに追いすがる。


「……イカロスのように、忠告を無視して空から落ちても知らんからな!」


その声も、枝葉をかき分ける音ですぐにかき消されていった。



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