パラサイト ラブ

そう思っても成す術はなく、私はひんやりとしたタイルの床に座って、入り口に立ったままの龍ちゃんをただ、見つめた。


「……腹、減ってないか?」


龍ちゃんは鬼になりきれないのか、優しい眼差しでそう聞いてきた。


「少し……すいた、かな」

「…何か持ってくる」


龍ちゃんは廊下に消え、しばらくすると車のキーを手の中で弄びながら戻ってきた。



「昨日買い物してないから手頃なものが何もなかった。買ってくるからそこに居て」



と、お風呂場の扉を閉めかけた…と思ったら、また顔をのぞかせてこう言った。


「朝乃、トイレは?」


龍ちゃん…いい人すぎるよ。前に私が恥ずかしい思いをしたこと、覚えてたんだね。


「……大丈夫」


私の答えを聞くと、龍ちゃんは今度こそ扉を閉めて外出してしまった。


< 145 / 216 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop