あの場面はどこに
 私の同棲中の彼は小説家を目指してる。彼はよく小説のネタになるかもしれないと言って、人間観察というものをする。

 ファミリーレストランやカフェに行ったり、用事もないのにわざわざ電車に乗ったりもする。

 何度か文学賞を狙って応募しているけど、いつも選考から落ちていた。

「いつか叶うはずだ」

 何の根拠もない彼の自信が私は好きだった。アルバイトだけど働いているし、家にお金も入れてくれてる。私のお母さんは小説家なんて夢みたいなこと言ってとブツブツ言ってるけど、そんなのは無視してる。

 十一月のある晴れた日曜日。洗濯を済ませて、彼にお疲れ様のキスをもらってから、ふたりでテレビを見ていると私の携帯にメールが届いた。

「君の携帯鳴ってるよ」

「うん、メールみたい」

 そう言いながら携帯があるベッドに走り寄った。メールの着信音が鳴ると嬉しくなる。友達かな?それともお母さんかな?

 誰かが私を気にかけてメールを送信してきてくれたかと思うだけで、気分が上がる。

 世間がiフォンやスマートフォンで活気づく中、二つ折りの普通の携帯を開き、メールを見てみた。

< 1 / 26 >

この作品をシェア

pagetop