午前0時、夜空の下で
男のことを思い出し、心は無意識に体を震わせる。

――恐ろしいほど、綺麗なひと。

その強烈な印象が、今でも頭の中から離れない。

しかしそれと同時に、漆黒の瞳には優しさなんて欠片もなかったことも事実だ。

頭では駄目だと分かっていたのに、あの男が誓いを守る保障なんて、どこにもなかったのに……魅了、されてしまったのだ、心は。

惚れた腫れただのという有りがちな感情ではなく、ただただあの美しさに魅せられたのかもしれない。

そこまで思い至って、心はグッと唇を噛み締める。

――私はきっと、あのひとにとって暇潰しみたいなものなんだ……。

血も体も捧げるということがどういうことなのか……単純に考えてしまえば、あの男に命をも捧げる、ということだ。

――あのひとは私の血を吸ってた。

そういうものを糧に、生きているのかもしれない……。

首筋にそっと手をやると、二ヶ所、傷となって残っているようだった。

痛みと言葉にはできない快感を思い出し、心は己を抱きしめる。

そのとき突然、寝台から離れたところにある扉を叩く音が、広い室内に響き渡った。
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