午前0時、夜空の下で
「……深雪のこと、覚えてるか?」

唐突な質問に、昴はゆっくり宗一郎へと目を向ける。

「いきなり何を――……」

「あいつは佐伯と幼なじみだったらしくてな。結婚前は同じ屋敷に住んでいる上に、四六時中一緒にいるものだから、浮気してるんじゃないかとよく疑っていたんだ」

「母さんの浮気疑惑なんて知りたくなかったんだけど……」

まだ若いうちに亡くなった母親の話題に、昴は戸惑いつつも苦く笑った。

美しく優しい母の姿を思い出し、少しだけ気分が浮上する。

父親の宗一郎と母親の深雪は、歳をとってなお互いを名前で呼び合い、昴が呆れるほど仲の良い夫婦だった。

そんな両親を見て育った昴にとって、母親の浮気疑惑など冗談としか思えない。

「深雪と結婚したことは、今でもまだ信じられん。高嶺の花だったからなぁ。それに……不思議な女だった。私は結局、深雪のことを何も知らん」

目を細め、寂しそうに語る宗一郎に、昴は驚いた。
< 272 / 547 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop