午前0時、夜空の下で
クロスリードは言葉を切って咳き込むと、真っ赤な血を吐き出した。

手を貸そうと身動きした心を、強い視線でその場に縫い止め、クロスリードは決死の言葉を口にする。

「――あの方が王でない世界を、私は生きたいとは思わない」

微動だにできない心の前で、クロスリードはゆっくりと目を閉じ……やがてすべての動きを止めた。


彼の時が、止まった瞬間だった。


両手で顔を押さえて心は俯く。

クロスリードは心を認めることができず命を狙ったのだろうが、心はクロスリードを慕っていた。

魔界に来たばかりで何の知識もない心に、多くの知識を与えてくれたのはクロスリードだ。

腹の内で何を考えていようと、クロスリードは心が魔界で馴染めるよう気を配ってくれた。

その優しさのすべてが嘘だとは思えない。
< 505 / 547 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop