君がいた夏


「だけど、どんどん俺に依存して、紀衣が紀衣じゃなくなってくのが、わかってきてからは、怖かった」

先輩は紀衣さんを見つめて言葉を続ける。

「……俺が、もっとお前を強くさせてたら、紀衣はこんな風にはならなかったのかもな………紀衣には俺は必要ないよ」

優しく、でも、きっぱりと
先輩はそう言った。

紀衣に俺は必要じゃない、と。

「………お前のもとから離れることはないよ。どんなおかしくなっても、紀衣のことを嫌うことはないと思う……でも、それは………恋愛としてじゃない」

先輩はゆっくり握ってた手を離す。

「俺が、守りたくて、ずっとそばにいたいと思うのは……菜穂だけなんだ……だから、たとえ紀衣でも、菜穂を傷つけることだけは許せない」

先輩が、ゆっくり紀衣さんから離れようとしたとき

「…………どうして、よ……?」

< 113 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop