威鶴の瞳
崩壊
──崩れるのは、一瞬だった──
「現実から、逃げた……?」
トーマがそう聞き返して来た。
まだ足りない。
説明が足りない。
それが何を指しているのか、その意味を伝えなければ。
それが崩壊の始まりで、それまでの生活の終わりだと……。
「柴崎依鶴の人格は3つに分割されました。そのうちのもとの人格は眠りにつき、ここ数年は姿を現さなかったんです。私と威鶴の存在も認識していませんし、逆に私たちも気付かなかった」
ぷつ……気付けば時間が飛んでいる。
自分の知らない過去が存在する。
私は『依鶴』の鏡の姿。
偽物で本物で、同じだけど別々な人格。
私は『依鶴』だから、『私』という人格自体には、名前すらない。
『私』は『依鶴』のニセモノ。
「『私』と『威鶴』が気付かないうちに出ていた人格こそ、『柴崎依鶴』の主人格、つまり本物」
「ホンモノ……?」