威鶴の瞳


「つまり依鶴と会えたのは私のおかげってことね、トーマ」

「……あぁ」

「覇気がなくてつまらない奴ね」



トーマは、何も話さない。

俺が目覚めてから、返事しかしない。

もぬけの殻のように……。



「トーマ」

「……あぁ」

「……いい加減現実見やがれバカ」



それでも、真っ直ぐ前をみつめたまま、どこか別の場所をみているようなトーマの表情も反応も、変わらない。



原因はわかってる。

依鶴が……別れを告げたからだ。

あの日、俺の人格と入れ替わる代償として、依鶴が消えた。

以前のように、半分眠りについて、半分戻りかけているような状態。



俺が精神的な満足を得る時、きっと『依鶴』は戻ることだろう。

そして予想であれば……今日、姉と会った時だと思う。



千鶴のショックで家を飛び出たのは俺だ。

それなら反対に、千鶴に会えれば……俺を思い出した所を見ることが出来ればきっと、俺も満足すると思うから。
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