【短編】腕時計。
このままキスされてしまいそうな……。



結局は2軒ほど回り定時をとうに過ぎた。同僚は上司に電話をし直帰すると告げる。同僚は再び時刻を確認して、私を食事に誘った。


小洒落たバー。
弾む会話。
美味しい食事とアルコール。


腕時計を見る姿が好きなのも忘れていた……。

デザートのソルベを食べ終えて店を出る。隣に並ぶ彼は腕を上げた。


……。

私は見れなかった。あんなに好きな筈の腕時計を見る彼の姿。



帰ろうって言われる……本当はもっと一緒にいたい……。


「ねえ」


彼の言葉に顔を上げる。首を傾げるように覗き込むのは、腕時計ではなく私の顔。


「今なら終電に間に合うけど……どうする?」



(おわり)
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