恋涙

思い出


「今週の日曜日、休み取れたから。」


珍しく早く帰ってきた久保さんが「ただいま」を言う前にそう言った。


「今週の日曜日って四日後じゃない。」


私はちらっとカレンダーを見た。


「だって日曜日仕事休みだろ?」


「まぁそうだけど・・・」


「よし、じゃあ旅行会社行くぞ!」


久保さんはスーツのままでおいでおいで、と手招きをした。



私はエプロンだけ外して久保さんを追いかけた。

旅行会社はアパートから歩いて五分くらいのスーパーの中にある。


久保さんは「散歩だねー。」と言いながらネクタイを締め直して歩いていた。


旅行会社に着くと、久保さんはパンフレットをじっくり眺めた。


私はその後ろ姿をずっと見てた。

「海側の空が綺麗に見えるところに行こう。」


久保さんが後ろを振り返って言った。


「静かな場所がいいな。」


「了解です。」


たまに抜けきらない敬語が好き。


今はもう呼ばないけど、「及川さん」って呼ばれるのも好きなんだ。


最初の頃に戻ったみたいでドキドキする。



結局、海に面したホテルを予約した。


日曜日ということで、どこも結構空きがあったんだ。


「楽しみだね。」


パンフレットを見ながら私はニヤけた。


うれしかったんだ。


今まで一緒にいられる時間なんてなかなかなかったから。


二人の悪あがきなのかもしれないけど、残りの時間の中で思い出をたくさん作りたかった。


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