棘姫

『はいっ、どうぞ』

差し出される四葉。

「いらない…よ。
ただの、草じゃない」



何か温かいものが心の底から込み上げてくる。

あたしの声は震えていた。




『ただの草だけど、幸運のシンボルだよ。それにね、この四葉、朝あなたが立ってたすぐ近くで見つけたの。きっと何かの縁だよ』

そう言って、あたしを真っ直ぐ見つめる少女。


あたしは躊躇いながらも、それを受け取った。




そんな時、
ネックレスの存在を思い出す。

自分でも、なんで買ってしまったのか不思議。


この子のためじゃない…
けど、あたしには四葉なんて似合わない気がする。

捨てるくらいなら――





「ぁ、あのさ―

『あ!!
やっと見つけた!!』


悩んで決心した末出したあたしの声は、知らない男の声に掻き消された。




『ぁ、恭哉【キョウヤ】だ』

少女が手を振る。


悔しいような
ムカつくような…。

言い表せない気分で少女の視線の先を追う。



河原の上の道に自転車を停め、下りてくる男が一人。


まぁまぁ高めの身長で、
少し茶色っぽい前髪長めの髪型。

今までいろんな男を見てきたけど、顔も悪くないと思う。

そこそこモテそうな奴。




『お前、何やってんだよ?こんな暗くなるまで』

――恭哉。
そう呼ばれた男は、あたしを気にかけながら少女に近付く。


『見てっ。
ほら、四葉だよ』

『"四葉だよ"じゃないって。おばさん心配して、家に来てたぞ』

注意するような口調だけど、少女を見つめる瞳は優しい。



こいつ…
この子が好きなのかも。

あたしは直感した。


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