ワケあり!
『きたきた、まってたよー』

 電話の向こうは、相も変わらず軽いノリの蒲生。

 本当はかけたくなかったと言いたいが、言うと余計な時間を取られそうで自重する。

「先生が渡部のところで何をするか…まったく分からないの…本当よ」

 自分もカヤの外であることを、絹は主張した。

『はっはっは…石橋のことも知らないんだから、それもあるかもなー』

 本当に信じたのかは分からないが、絹がボスのことを実はよく知らない、という事実だけは認識しているようだ。

「その、石橋って人の研究と関係あるんじゃないかと思うけど…何をしてた人?」

 こうやって、敵側の人間と話しているのは、妙な気分だ。

 敵の敵は味方とはいうが、気は許せない。

 この男だって、その気になれば絹やボスを平気で害せるのだから。

『さーじっさんだし、もうおっちんでるしなあ…織田の内部のことは、オレも調べにくいんよ』

 蒲生もお手上げか。

『あ、しかし、絹んとこの保護者を調べてて、面白いものが引っかかったぞ』

 電話の向こうが、ニヤッとした気がした。

 面白い?

 まさか、チョウに恋慕しているホモということがバレたのか?

 絹は、一瞬頓狂なことを考えてしまった。

 いや、実はそれは真面目な話だ。

 ボスを殺すなら、刃物はいらない。

 チョウの身の安全を盾に取れば、何だって言うことを聞くだろう。

『保護者んとこの助手…あいつ…絹と同じ嘘の戸籍だな』

 ああ。

 ボス自身の話ではなく、島村の話だった。

 嘘の戸籍などお手の物だから、そういうこともあるだろう。

 絹は、その点にはまったく驚いていなかった。
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