踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~
第三章

授業中

 下校時刻になると校門付近には再び報道陣の姿が目立つようになった。彼らは帰宅しようとしている生徒の誰彼構わず声をかけている。無視をする生徒もいたが、彼らの質問に答えている生徒もいた。テレビに出られるかもしれないまたとないチャンスなのだ。気軽な気持ちで答えているのだろう。
 美鈴と佐枝が校門を出たところで他の生徒と同じように報道陣のカメラとマイクを向けられた。佐枝は興味があるのか、報道陣の方を目を輝かせて見つめていたが、美鈴が彼女の腕を引っ張りその場を後にした。
「せっかくテレビに出られるかもしれなかったのに」
 佐枝は美鈴に対して不満げな表情を見せた。「あんな連中に関わっても碌なことにはならないでしょう?どうせ今夜のお通夜にも集まって来ている筈だし」
「美鈴は嫌なの?テレビに出られるのなんて滅多にないことだよ?」
「私は嫌なの、目立つと碌なことがないから」
 美鈴はいつの間にか母と同じ様なことを言っている自分に気づいた。
 報道陣の群れから抜けると二人は校門の方を振り返った。何人ものレポーターが校舎を背景にして何かを喋っていた。まるで彼女達の学校が見世物のようになっていた。
「佐枝は今晩のお通夜に行くの?」
 再び歩き始めた時、美鈴は佐枝に問いかけた。
「一応クラスメートだし、顔を出した方が良いんじゃない?」
「そうだよね、それじゃあ六時に公園の前で待ち合わせしない?」
 佐枝は少し顔をしかめた。美鈴のいう公園とは昨夜響子が殺された場所だった。響子の家とその公園はそれほど離れてはいなかった。「あそこはねぇ」
 佐枝は気がとめるように言った。
「そうだよね、それじゃあ六時頃に佐枝の内に行くね」
「じゃあ、待ってる。」
 そう約束をすると二人はそれぞれの家路についた。
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