踏みにじられた生命~紅い菊の伝説1~

接触

 昼下がり、食事が終わった生徒達はそれぞれ思い思いの時間を過ごしていた。校庭や屋上に出ている者、居室の中で仲間達と話し込んでいる者などそれぞれが自由な時間を楽しんでいた。
 そんな中で野川明美と飯田美佳の二人は教室の片隅で声を潜めて話し合っていた。
 既に今朝、伊本彩花のが殺された遺体が見つかったということはクラスの全員に伝えられていた。彼女達はその事実に脅えていた。更に言えば、二人とも首を吊られた状態で発見されたことに恐怖を感じていた。
「ねえ、なんで二人が殺されたのよ」
 明美が脅えた声で言った。
「そんなこと私に判るわけないでしょ。でも
…」
「でも?」
「私達、狙われているんじゃないかしら…」 美佳がそう言ったとき、二人はあることに気づき、言葉を失った。体に水をかけられたように冷たい汗が肌を伝い、震えが強くなった。
「もしかすると吉田沙保里のことで狙われているんじゃないかしら」
「よしてよ美佳。『あのこと』は自殺って言うことになったじゃない。それに虐めのことも学校が揉み消したんだし、誰にもばれちゃいないわよ。『あのこと』が自殺じゃないってことは…」
 明美は脅えたままでそう言った。
 だが二人は沙保里の日記の内容を知らなかった。日記の内容から沙保里の自殺に疑問を持っている人間がいることは知らなかった。死出に殺された二人を含めて彼女達を憎んでいる者がいることに気づいていなかった。
 彼女達の恐怖は、その方向を変えていった。「明美、私達呪われているんじゃないかしら」「呪われている?まさか…」
「そうよ、吉田沙保里に呪われているのよ。きっと…」
 二人の恐怖は頂点に達した。
 悲鳴にならない悲鳴がお互いの耳に張り付き、離れなかった。悲鳴が悲鳴を呼び最後には二人とも叫んでいた。
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