アクセサリー
「手、冷たいね」
 隆一は彩乃の手を握りながら言った。
 急に手を握られた彩乃は少しとまどった様子を見せる。それを隆一は見逃さない。
 緊張してるな。
 人見知りか、シャイか。はたまた男に慣れていないのかもしれない。まだ十八歳らしいし。
 小さな冷たい手は小刻みに震えていた。震えを抑えようとしてか彩乃の手に力が入る。隆一の手の中で震える彩乃の手。
 隆一は手中に彩乃がいるように感じた。自分の意のままに彩乃を操れそうな気がして、少しの優越感があった。
 隆一はまじまじと顔を眺める。けっこうきれいな顔立ちだ。ちょっとリス顔で、色も白くて顔も小さい。うっすらとした化粧、そのぐらいでちょうど良く感じる。白いブラウスに、白いカーディガン、ブルーのジーンズが似合っている。
ただどこかぎこちない印象はぬぐえず、まだ〝大学生″になりきれていない幼い感じがする。
 もしかしたら対人恐怖症かもしれない。そんなことを考えていると、
「……隆一君は温かいんですね」
と、彩乃は笑顔を作りながら言った。どこかぎこちないながらも、にっこりと笑うために口角を上げている。なんとか平静を装いたいのだろう。彩乃の考えていることが手に取るように分かった。
「そうなんだよね。血のめぐりがいいのかな?」
「私は逆によくないんですね」
「でも、手の冷たい人は心が温かいっていうじゃん? 彩乃はすごく優しいんじゃない?」
「そんな……、ただ血行が悪いだけだよ」
「そんなこと言わない」
 自虐的なことをいう彩乃をいさめるように、隆一はじっと彩乃の瞳を見つめた。彩乃も対抗してか、ぎこちないながらも、ほほ笑みを返す。
 互いに視線をからませたまま、時だけが過ぎていく。
 けっこうかわいいじゃないか。もう少しからかってみてもおもしろいかも。隆一はそっと手を離す。彩乃の手はテーブルに残されたまま、行き場所を失ったようにしばらく動かなかった。


 
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