アクセサリー
「……彩乃も四限だったの?」
 隆一は気持ちを落ち着ける。別にとまどうようなことじゃないと、冷静になる。
「ううん、五限もあるんだ」
「五限もあるんだ。一年生は必修がけっこうあるから大変ね。俺も去年はそうだったような気がするよ」
「隆一君は?」
「俺はまた吉祥寺でバンド練習だよ」
「そうなの? 私、六時半から吉祥寺で飲み会があるんだ」
「へえー、それは偶然だね……」
「あの……」
 彩乃は何か口にしようとしたが、止めた。視線を下にやったり、元に戻したりしている。
 そんな彩乃をじっと見る。今日は白のカットソーの上にライトグレイの薄手のパーカー、前と同じブルーのジーンズ。お尻の形がきれいだと思った。
「練習っていつ終わるの?」
「ああ、九時だよ」
 練習が終わったあとに会いたいのだろうか。おそらくそうだろう。
「彩乃の飲み会はいつ終わる?」
 しょうがない、返信を忘れた埋め合わせだ。
「九時半には終わると思う」
「じゃあ、終わったらさ、ちょっと会わない? 一日のライブのことを教えるから。終わったらメールちょうだいよ」
「本当に? うん、分かった。連絡するね!」
 彩乃はうれしそうな顔になった。やはり会いたかったのだ。
「それじゃ、また」
 隆一は彩乃に手を振って別れた。五限授業の教室に向かう彩乃を見つめながら、
「面倒なことしちゃったかな……」
と思わず口にする。
 別に彩乃が好きなわけでもない。特別会いたくもないが、彩乃の困ったような顔を見たら、ついつい会おうなんて言ってしまった。返信が遅れた罪滅ぼしもあるのだが、ちょっと面倒かもしれない。練習後には恒例のバンドのミーティングもあるのだ。でもミーティングなんて名ばかりで、もう話しあうも特にないだろう。もしかしたら彩乃と会うほうが 楽しいのかもしれない。
「まあ、いっか」
 隆一は気持ちを切り替えて、ギターケースを担ぎなおした。
 その前に徳さんに返信しないと。携帯を取り出し、了解!
と送信する。
 返信を忘れて変な罪悪感にかられるのはこれっきりにしよう、と思った。
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