アクセサリー
 彩乃は三鷹に住んでいて、自転車で通っているらしい。隆一は彩乃と駅で別れた。彩乃は一緒にいたそうな顔をしていたが、別れることにした。これぐらいで十分だ。それ以上、彩乃と何を求めるものもない。
 冷たく、汚らしい風が吹くホーム。排出ガスが混じって汚染された風にさらされてどんどん汚されていく。
 家路につくサラリーマンや、コンパ帰りか、わいわい騒ぐ学生たちが目につく。隆一はマフラーに顔をうずめた。
 彩乃はかわいらしいけれど、もう一つ足りない。一緒にいても楽しいには楽しいけれど、刺激がない。一緒に過ごしたいと思えるものがない。
 タカミぐらい容姿レベルがないと、これ以上何もしないだろう。
特急電車が通過するようだ。電車がだんだん近づき、大きくなって見える。

 今、線路に飛びこんだら。
 
 隆一はときどきそんなことを思う。
 別に電車にひかれることばかり考えているのではない。学校の屋上から飛び降りたら。 キッチンにある包丁のどを刺したら。高速に乗って、急に逆走したら。
 こんな少しのことで人生は大きく変わる。下手したら人生が終わるかもしれない。
 こんな簡単な行為ですべてが終わるのだ。そう考えると背筋がぞくぞくする。
 もし今、線路に飛び込んで死んだら、なんと言われるだろう。
 大学二年生、線路に飛び込み自殺!
 こんな感じでネット記事には載るだろう。朝のニュースで大きく扱われるかもしれない。新聞にも小さく載るはずだ。
 玄太郎にインタビューする記者もいるかもしれない。
「なんで自殺したのか分かりません」
 きっと玄太郎はこんなことを言うだろう。いや、
「そんな……ヤツじゃなかったのに……」
 情感がこもって、泣いてくれるかもしれない。玄太郎ならきっと泣いてくれそうな気がする。
「将来に漠然とした不安を抱えていたんでしょう」
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