ドッペルゲンガー ~怪事件捜査倶楽部~。
高村の死から、4週間近くたった、ある放課後、私は日吉から裏庭に呼び出された。

「どうしたの?」

私が裏庭に行き、校舎の壁近くにいた日吉の背中にそう聞くと、日吉は振り返りながら

「う~ん?」と高い声でうなった。

「どうした? それは、こっちのセリフよ」

日吉は微笑みながら歌うようにそう言うが、私は何の事だか分からずに首を傾げた。

「え?」

「ふふふふ」

私の反応がさもおかしいというように、日吉は哂う。

「榎木ちゃぁん――どうして高村殺しちゃったの?」

「え?」

冗談なんだか本気なんだか解らなかった――冷や汗だけが流れる。

「今日、くわしくお話しようか? そうね、12時くらいが良いかな」

「え?」

「あたし、見てたんだ。アンタが高村、突き落とすところ。携帯で撮ってたの」

そう言って、携帯を取り出し、軽く横に振った。

「バッチリ撮れてるわよ?」

「あ、あなたあの時、コンビニに行くって――」

言いかけて日吉に遮られた。

「あんな嘘信じたの?」

悪びれる事もなく、日吉はバカにしたように鼻で笑った。

「もしかして、あんたを信じるって言った言葉も信じてんの?」

次の言葉を予期して、私の鼓動は高鳴った。

――次の言葉を聞きたくはなかった。

「あんなの嘘よ、アンタがついてるのと同じ」

「わ、私は嘘じゃない。あれは高村が勝手に!」

そう叫ぶと、日吉はふと笑った。

「案外、正解だったんじゃないの?」

「違う!」

大声で否定した私を、日吉は冷ややかな瞳で見た。そして、私の言葉などどうでも良いというように抑揚のない声で言う。

「……そうね、夜、12時に学校の近くの公園に来てくれるかしら? まずは、2万持って来てもらおうかなぁ」

「ちょっと! なに言って――」

「アンタに!! 文句言われる筋合い無いわ!」

そう怒鳴ってまた私の言葉を遮った日吉は、見下したような眼つきをした。

「あんたはもう、あたしに逆らえない。そうでしょ? いつだって、警察に言ったって良いんだから。証拠もあるしね!」

携帯を見せ付けるようにして振る日吉を、私はただ睨みつけた。

「わかったわ」

それだけ言って、私はその場を離れた。
乱れた気持ちを直そうとトイレに入って初めて、私はあることに気づいた。

――なぜ、日吉がコンビニに行くと嘘をつく必要があったんだろう?

そうだ……あの時、日吉が私に「なにもバラすなんて言うことないのに」と言った時、彼女は確かに、笑ってた。
それに気づいた時、私は日吉を理解した。

あの女――私を利用したんだ!

高村が言っていた脅迫状なんて、私は出してない!
もしかしてあれは――日吉が出した!?
私に罪を擦り付けるために「高村に会うの」と聞いて、私と会う前に高村にある事ない事吹き込んだんだ!

――そして私を――追い込んだ?

(真相を確かめなくちゃ――たとえ脅してでも!)
そう決意した私は、家から果物ナイフを持ち出して待ち合わせ場所へ向かった。

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