LOST ANGEL

「なんか…懐かしくて…」

意外な言葉だった。

イジメや母の言葉で苦しんできたはずの場所なのに、そう思わせるのは何なんだろう。

「変だよね…」

「地元だから特別なのかも…な」

そうだ。

杏奈はここでひとりで長い間戦ってきたんだ。

だから辛い思い出しかなくても懐かしいと感じるのかもしれない。

「引き返す?」

「……」

「大丈夫か?」

「平気。…行こう」

一歩一歩、ゆっくり歩みを進める杏奈。

だんだんと人気の無い所へ向かっていく。

駅周辺とは違い、どんよりとした空気に包まれているような雰囲気を感じた。

「もう、2度と来ないと思ってたのに」

ちらちらと周りを見渡しながら歩く杏奈。

背の高い建物や店舗等はなく、民家が広がる。

5階建てくらいの団地やアパートも多く見られた。


杏奈は急に走りだし、小綺麗なアパートの階段を上って行く。

急いで追いかけるオレ。

「ぁ…んな」

3階の廊下のちょうど中心辺りに杏奈は座り込んでいた。

「このアパート?」

そっと寄り添う。

杏奈は首を振り、部屋ではない方向を指差した。

「…えっ?」

「ここから見えるでしょ。汚い2階建のアパート」

オレは廊下から表の景色を見る。

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