私の好きな人は駐在さん



担当の原稿が締め切り間近となり、私は想像以上に追い込まれていた。
今回雑誌でイタリアン特集を組むことになり、私はその担当に当てられた。
食の記事を書くのは初めてで、ベタではあるが、イタリアンと言えば、パスタでしょ。という由紀の助言の元、先程のように昼休みに、ランチを兼ねて、最近食べ歩きを始めたのだ。
こうしてランチで行ったお店の中から、幾つか目ぼしいお店をピックアップし、お店にアポを取って許可がおりれば、取材させてもらい、記事に起こすつもりだった。
しかし、意外に手間取っているのが現状。アポがとれて、取材を終えた店はまだ3軒。少なくともあと2軒は取材したいところ。んー、と首を傾げつつ、頭をひねりつつ、私は会社のデスクで思考に耽る。

「締め切りも近いしなあ。早くアポとるお店くらいせめて決めなきゃなあ……」
細く、長いため息を、頬杖をつきながら吐いた。

「じゃあ、今日行っちゃわない?」
声が聞こえた、背後に振り返ると、にっ、と笑った由紀がそこに立っていた。

「そりゃあ……私は助かるけど……由紀はいいの?」

私は少々疑問の念を抱きつつ、おずおずと聞いた。

「ええ。いいわよ。前から行きたいなーって思ってた穴場みたいなお店も知ってるのよー。」
書類片手に、右手で作ったピースを私の方に付き出した。

「ほんと!?それは助かるけど…由紀から言い出してくれるなんて、珍しいね。」
口に出すか躊躇われた疑問を、私はくどくならないように気を付けながら、出来る限りさらっと口にした。

由紀は、たまに私と夜御飯を食べに行く事はあるものの、残業で遅くなった帰りに、ちょっとラーメン屋さんに寄るとか、最近は専らそういう具合でしかなかった。
決して仲が悪いわけではないけれど、私がお酒に弱いこともあって飲みには行かないし、まして、誘うのは私からのことが大半だった。由紀のサバサバした性格を考慮すると、当たり前の結果なのであろうが。

「いっつもかおるから誘ってもらっ、てばっかだしさ、最近2人でゆっくり話すこともなかったから、ね。じゃあ、今日仕事終わったら、行こ。」
私の肩に手をポン、とおいて、由紀はコピー機の方へ颯爽と歩いていった。

変わったこともあるものだなあ、と思いつつ、私も棚ボタな気持ちを抱きながら、コピーをとる由紀を見届け、パソコンに目を戻した。




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