記憶 ―砂漠の花―

父上は冷静なアズに、ムッと顔をしかめる。


「…アイリ、…お前知っているか…?」

そう片手を口元に添え、身を乗り出し、小声で私に聞いてきたのだ。


「あははっ、多分いないと思う~!」

手をひらひら、笑いながらそう答えると、横からアズの肩が私を攻撃する。


「アズ、痛いぃ~…」

「お前だって人の事笑えないだろ!?」

「私はいいの!」

ぎゃいぎゃいと二人で騒いでいると、父上は呆れて言った。


「お前たちは、いつまで経っても子供だなぁ…」

ふふっと父上は笑うと、手をパンパンと二回叩き、私たちの注目を再び集めた。


「さて、ここからは真剣な話なんだが…」

私とアズはピタッと動きを止め、互いに顔を見合わせた。

ここからが本題…?



「実は先日。ある行商人から、気になる情報を得た。かつての敵国サザエルに、元王妃だと噂されている女がいたと言うのだ…」

父上は自分の感情を押さえるかのように、ゆっくりと話した。


「あくまで噂だ。ただサザエルという事だけに、可能性はなくはない。」

急な展開にポカンと口を開ける私の横で、アズは興奮気味に父上の話に食い付いていた。


「しかしっ!母上は亡くなったと…!」

< 27 / 283 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop