Raindrop
まずは小学生の部に出場の花音。

予選のときよりも更に自信をつけた彼女のバッハは実に堂々としていて、そして華やかだった。

ホールで聴いていた僕と拓斗は顔を見合わせて微笑み合い、彼女が一番だと予想した。

そしてそれはその通りとなり、花音は自分の力で浅葱莉子に勝った。


翌日の中学生の部では。

大人でさえ表現するのが難しいとされるベートーベンのヴァイオリンソナタを、拓斗は見事に奏で、ホールに美しい華を咲かせた。

中学一年生とは思えない表現力に、ホールの聴衆からは割れんばかりの拍手が送られた。


その直後が、僕の番だった。

ともすればその拍手に──拓斗の音に、呑み込まれそうになるところだけれど。

今の僕は拓斗の音が怖いというより、嬉しいと感じていた。

こんなにも素晴らしい演奏家と、同じ舞台で張り合えることが楽しいと。

そうしてステージで、自分でも満足出来る演奏をした。


僕の演奏をステージ袖で聴いていた響也は、愕然とした表情で小刻みに震える浅葱亜子の姿を見たそうだ。

彼女の順位は三位。

予定通り、拓斗と2人でひとつ順位を下げてあげられた。

“ふたつ”じゃなかったのが、残念なところだけれど。

表彰式で僕と拓斗の顔を見ることなく、下を向いたまま去っていった彼女を見たら、なんとなく、もう僕たちには関わってこないような気がした。


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