デュッセルドルフの針金師たち前編

北帰行

七ヶ月ぶりの再会だ。マメタンはすっかり東京館の
ベテラン姉御になっていて、あれやこれや、
皆の面倒を見、今日は越路吹雪が来るわよとか、

厨房に指示したりとか、何か日本と変わりないじゃん、
と思いつつも、ありがたく三百ドルを、
ドイツ土産とをそえてお返しした。

「青タオルもウィーンではたいへんだったのね」
といいつつ、
「日本人ばっかりで、ひとつも語学は上達しないわ」
とか言っていた。

大使館や商社、芸能人が多く、全くの日本人村の住人だ。
本人も今、日本から柔道を教えに来た佐藤という
体育会系の先生とやらに熱を上げていて何かと大変らしい。

オサムは一週間ほどベラホイにいて、それからストックに
仕事を探しに行くということで、
なつかしのべラホイユースホステルに泊まった。

まだ欧州に着いたばかりの日本人がアラブのひげ男に
カメラを見せびらかしている。案の定翌日大騒ぎ。
いくら説明してもそんな男は宿泊していないとのことだった。

アラブを見たらドロボーと思え!
これは偏見でもなんでもない。
彼らムスリムは宗教的にそうなっているのだ。

持てる者から持たざる者へ
喜捨して平等と言う考え方なのだ。
アッラーの神のもとに平等。

ある日ユースのキッチンでマーガリンを開けて炒め物
をしていたら、きっちり半分となりのアラブに持っていかれた。
アッラーの名の元に半分喜び与えよこれ平等なり。

アッラーアクバル!イ二シャラー!(神の思し召すままに)
どこの国にも良い奴と悪い奴とがいる。しかし、
とにかく、アラブにだけは気をつけよう。
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