デュッセルドルフの針金師たち前編

トーマスペンション

とにかく真剣に仕事を探そう。オサムはストックに戻ると
まず。絵葉書を十枚買って東京館宛でマメタンの住所と
名前だけを書いた。毎晩書いて翌日出すことにした。

相変わらず職探しは困難を極め、必殺40軒ノルマも
途中で挫折し、郊外の牧場もくまなく回ったが・・・。

「おげんきですか?きょうもだめでした」

「お元気ですか?すばらしい大自然の中の牧場でしたが
トルコとアラブに占領されて駄目でした」

「はーい、お元気ですか?仕事なくともこちらは元気で
あちこち歩き回っています。足が棒になってます」

「スベンスカランデばかりで全く駄目です。空きも
なかなかありません。ドイツに戻ろうかと思ってます」

マメタンからユースに返事が来た。

「東京館で再び頑張ることにしました。
頑張ってください。     マメタン」

「明日仕事が決まらなければドイツへ戻ります。
デュッセルドルフかミュンヘンで、皿洗いなら
いつでもあります。     オサム」

「ドイツまで行かなくてもコペンに仕事があります。
トーマスペンションに部屋を借りました。マメタン」

「・・・・・・・オサム」

「近くに友人の操さん、あの大阪弁丸出しの美人が
住んでいます。彼女が勤めているノアポップカフェテリア
に空きがあります。厨房にはデンマーク人と結婚した

小林君もいます。是非コペンに帰ってきてください。
また一からやり直しましょう。     マメタン」

一番恐れていたことが起こってきたみたいだ。
不思議な魔力でコペンに吸い寄せられてしまう。
外国での日本人村にどっぷりだ。

ええもういい。天に向かってオサムは叫んだ。

「負けた負けた。悔しいけれど大敗北だ!」

コペンで、肩身の狭い思いで、一冬辛抱しよう。
冬は必ず春となる。いつか必ず皆を見返してやる。
特にあの佐藤武、今に見ていろ。

オサムはことさらニヒルになっていった。
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