デュッセルドルフの針金師たち前編

アルトシュタット(旧市街)

夜10時オサムは店が終わってアルトに駆けつけた。
やはりものすごい人の波だ。やっと十字路付近の人
ごみの中で彼らの姿を発見した。

近づいていくと真っ先に黒髪の彼女がオサムを見つ
けた。とてもうれしそうな顔をして走ってくる。
石畳の上だ。人をかき分け走ってくる。

オサムは髪も少し長くなりだして、あのトレスコ
にジーンズのパンタロン、けつまずきそうだ。
彼女は止まらない。そのまま思いっきり、飛び上がって

オサムに抱きつき、さらにへビィなキスをした。周りに
人垣ができて大喝采。アルトは不思議な夢の世界だ。
何をやっても映画の中のようだ。切り絵師が出ている。

神技だ。どんな絵柄もはさみ一本で切っていく。
とんぼ返りの少年がいる。洗濯板とブリキのたらい、
板に一本のワイヤーを張っただけのガラクタバンド。

そしてあのモーレツな路上販売と一瞬のポリツァイ
パフォーマンス。あのワーゲンがすごく様になっている。
ところがこの日は少し様子が違った。すぐにポリスカー

が戻ってきたのだ。ひと騒乱の末何人かが連行された。
縁日はすばやかったが石松はかばんにしまいきれずに
ケッテごと押収された。本人は無事だったが・・・・。
< 47 / 64 >

この作品をシェア

pagetop