デュッセルドルフの針金師たち前編
どうしよう、どうしよう。彼女を部屋に上げたら
何が起こるかわからない。その気がないといえば嘘になるし。
とにかく寝不足でボーッとしてて、明日マメタンが来るし。

昨夜のポリスは強烈だったし。これほどタイミングが悪いと
何がなんだか分からなくなってくる。それでも時は止められない。
彼女と腕を組んで歩いてはいたがオサムはひたすらブスッとしていた。

とうとうアパートについてしまった。エレベータが下りてくる。
オサムは半分眠ったフリをしていたが、彼女はキョロキョロ、
何もかもがものめずらしいのだ。エレベータの扉が開いて

狭い廊下をわずかに歩くと突き当たりがもうオサムの部屋だ。
いざ、オサムの部屋の戸を開ける。彼女は肩越しに興味津々
少女のようなその瞳に思わず吹き出しそうになった。

「オー ビューティフル!」
何がビューティフルだ。そこにはソファーとテーブルがある
だけじゃないか。右てに台所が見える。扉があってトイレット
とシャワーの絵。ソファーの左手の寝室はドアがなくて丸見えだ。

椅子と机があって作りかけのケッテが並んでいる。
「こうやって作るんだァ!すごーい!あなたも仲間なのね」
そんな感じを彼女はオーバーアクションでやる。

「そうそう、イエスイエス」
と言いつつ、どうしたものかと思いながらほんとに困った。
明日この部屋にマメタンが来る、しかもずっと留まる可能性が高い。

それは実際に本当なのだと思うとほんとに疲れた。オサムはソファー
で眠りかけた。と、その時。あちこち見回っていた彼女が隣に座った。
にじり寄ってきながら彼女はテーブルの上に置いてある茶色の土の塊を

手にする。ずっしりと重いその塊は、前にアルトのディスコで10
マルクで買った、わずかにその香りのするハッシシのまがい物だった。
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