デュッセルドルフの針金師たち前編

シベリアの空2

4日目になってやっとナホトカ港が見えてきた。いよいよ上陸だ。
コンパートメントで荷物をまとめ入国カードを書き上げてじっと待つ。
緊張のひと時、やっと入国審査官が来た。

5分ほど厳しい顔をしてパスポートと荷物を調べる。
最後に真正面からパスポートの写真と見比べている、怖い。
パスポートを閉じるととても優しい顔でにっこりと微笑んでくれた。

あー、ほっとしたがなんとも肩がこりそうな国だ。
アナウンスのあとやっと上陸だ。
船から見るとナホトカはなんとなく薄暗くすすけて見えたがその理由はすぐに分かった。

長い船旅ふわつく足でインツーリスト(国営旅行社)付のバスに乗り市内を一巡する。
全く看板宣伝広告と言うものがない。時々あるのはめちゃくちゃ大きなレーニンの肖像画、
しかもバックは赤だ。ほかは青もなければ黄色もピンクもない。

色彩というものがまるでないのだ。最新式の労働者団地と説明されても、
日本で言えば相当古い市営団地みたいなものだ。
平等を突き詰めていけばこうなるしかないのかという印象を強く感じた。

インツーリストのガイドさんはとても親切で日本語も上手だった。
モスクワ大学の日本語科を卒業したんだそうだ。
通訳ガイドと言うのはエリート中のエリートなのだ。

翌朝ナホトカ駅からシベリア鉄道でハバロフスクへ向かう。
大きな線路に大きな客車。東の窓から見えるのは時折白樺の林と、
いつまでもどこまでも続く荒野の大平原。

西の窓から見えるのは、これまたどこまでもつづく黒い山々。
ほんとに沈む夕日は馬鹿でかく圧倒的であった。
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